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最高裁判所第三小法廷 昭和24年(オ)230号 判決 1951年2月06日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由は末尾添附別紙記載のとおりであり、これに対する当裁判所の判断は次ぎの如くである。

原審は、本件仮処分取消により上告人の蒙ることあるべき損害は金銭によつて償われ得る損害のみであると判断して、本件仮処分の取消をしたのであり、その判断は結局相当である。仮処分申立人の損害が金銭によつて償われ得るものである以上、相当の保証を立てさせて置けば、仮処分を取消しても後に損害が生じた場合右の保証で償うことが出来るから、こういう場合には他の争点について判断することなく、此の点だけで仮処分を取消しても差支えないわけである。それ故本件において、上告人の蒙ることあるべき損害が金銭によつて償われ得べきものと判定された以上、論旨(一)乃至(三)記載の事項につき原審が判断することなくして、仮処分を取消したことは違法とはいえない。又論旨(四)記載の事情に付き原審の判断に誤があつたとしても、右の様な事情が無くても、上告人の損害が金銭によつて償われ得るものであるとの判断が為された以上、それだけで仮処分取消の特別事情となり得るのだから、仮処分を取消した原審終局の判断は結局正当たるに帰する。論旨(五)所論の、「上告人三男を居住せしめる必要」云々のことは、原審口頭弁論調書及第一審判決事実摘示の記載によつて見ると、上告人は右の事情を、上告人が被上告人の賃借申出を拒絶する事情の一として陳述したに止まり、仮処分取消によつて生ずべき損害として、主張したものでないこと明白である。上告人が本件土地上に家屋を建築して三男を居住させることは、たとえ本件仮処分が取消されずに存続するとしても、本案の訴訟において上告人が勝訴の確定判決を得ない限り為し得ないことである。それ故仮処分が取消されるか否かによつて此の点について差異が生ずるのは、上告人が本案訴訟に勝訴して執行を為す際、現存の未完成家屋を取毀すに要する時間と、仮処分取消により上告人が完成させるかも知れない家屋の取毀に要する時間との差だけであつて、これが三男居住云々の事情に大した影響を及ぼすものとは考えられない。従つて上告人が右の事情を仮処分取消による損害として主張しなかつたのは当然のことと思われ、原審が此の点につき判断しなかつたとしても違法とはいえない。のみならず原審が上告人の蒙ることあるべき損害は金銭によつて償われ得るものだけだと判示したのは、以上に書いた様なわけで右事情は仮処分取消しによつて生ずべき損害とは認めなかつた趣旨と解することも出来る。尚論旨では仮処分が取消されると本案訴訟勝訴の曉、執行が不能になる虞があるとか、著しく困難になるとかいつて居るけれども家屋が第三者に譲渡される虞があれば譲渡禁止の仮処分を得ることも出来るし、其の他本件仮処分が取消されると否とにより執行に関して大なる差異が生ずるものとは思えない。

以上の理由により上告を理由なしとし、民事訴訟法第四〇一条、第九五条、第八九条に従つて主文の如く判決する。

以上は裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 穂積重遠)

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